IPO準備SaaS企業向け! 上場に耐えうる内部統制と組織づくりのリアル

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2022年の地政学リスクの顕在化や米国テック企業の株価暴落を機に、スタートアップには冬の時代が到来しています。2023年8月時点で国内IPOの中止・延期をした企業は7社にのぼり、株式市場の動向を踏まえたもの以外にも、コーポレート・ガバナンスや内部管理体制の有効性についての指摘事項をクリアできずIPO中止に至った企業も存在します。
SaaS企業が持続的な成長を実現しながら、上場に耐えうる内部統制や社内体制を構築していくにはどのようなステップが必要になるのでしょうか。
本セミナーでは数々のIPO準備企業の経理組織を支援してきたメリービズの長谷氏と、SaaS企業のコーポレート部門に導入実績が豊富な「Scalebase」を提供するアルプの西本氏が登壇し、IPOを目指す上で押さえておきたい内部統制と経理組織づくりについて、事例を交えてお話ししました。

登壇者紹介

西本 諒(にしもと りょう)
アルプ株式会社・Revenue Division アカウントマネジメントグループ
2019年 東京大学経済学部を卒業し、PwCコンサルティング合同会社に入社。通信系事業者や自動車・医療機器・嗜好品メーカーなどの営業改革やマーケティング改革支援に従事。2021年10月にアルプ株式会社に入社。入社時よりカスタマーサクセスを担当。Scalebaseの導入支援及び活用サポートに従事。直近ではCS経験を活かし、請求書の発行から決済連携までをカバーするScalebaseペイメントの開発を推進。

長谷 龍一(はせ りょういち)
メリービズ株式会社・ビジネスディベロップメントチーム
2018年上場企業の経理からメリービズ株式会社に入社。『バーチャル経理アシスタント』立ち上げ期のコンサルタントとして従業員一桁台のベンチャー企業から東証プライム上場企業まで、数十社以上のサポートに従事。現在はBizDev(事業開発)・マーケティング・PR領域を担当し、『バーチャル経理アシスタント』の事業展開および『メリービズ経理DX』コンサルティングの事業立ち上げを推進。

内部統制構築のプロセス

(西本氏)内部統制構築のプロセスは大きく分けると下図のように3つのステップで進んでいきます。

ステップ1の基本方針は、各企業の取締役会で決めるのが一般的です。ここで決まった方針を部署、業務領域に分けて責任者をたて、それぞれの単位ごとに内部統制の計画・方針を立てていきます。
ステップ2では、ステップ1でたてた責任者のもと、既存で運用されている規定・暗黙の了解で決まっている物事を洗い出します。そして記録・保存など明文化の対応を行い、識別したリスクをカテゴリ分けし評価を実施します。このステップでフローチャート、業務記述書、リスクコントロールマトリクスなどの作成を行います。
ステップ3では、前段で評価したリスクに対して改善を行います。不備がある場合は、内部統制の報告実施までに改善されることが求められるため、重要なポイントです。

SaaS企業が対応するべき内部統制① SaaS固有の会計処理

(西本氏)最初にSaaSビジネスによりバックオフィスの業務はどう変わったのかを説明します。
従来の売り切り型ビジネスでは、受注した1つの契約から1枚の請求書が出る仕組みで非常にシンプルな業務フローでした。SaaSビジネスでは、1つの契約から複数の請求書が継続的に発生し、時系列での契約の管理が必要となりました。

(西本氏)また、会計上の収益認識基準と照らし合わせた対応も必要です。サブスクに当たるものはアクセス権として期間で処理を行い、そのほかの使用権に当たるものはその時点の収益認識をする必要があります。

(西本氏)私がこれまでサポートしたお客様の中では、下図のような事例がありました。

(西本氏)そして、それぞれ下図のようなリスクが考えられます。

(西本氏)仮にシステム導入を検討する上でも、会計処理まで考えられていなければ、下図のようなSaaSビジネス特有の複雑な売上計上に対応できないので注意が必要です。

SaaS企業が対応するべき内部統制② ITシステムの内部統制

(西本氏)続いて、ITシステムの内部統制についてです。ITシステム統制は「IT全社的統制」、「IT業務処理統制」、「IT全般統制」の3つに分類されますが、中でもIT業務処理統制は正確な財務諸表の作成に繋がり、財務報告の信頼性を上げるために重要です。

(西本氏)IT全般統制とIT業務処理統制では、それぞれ下図のような対応が必要です。

IT全般統制について

(西本氏)まず、ITに係る全般統制の4つの対応についてです。 「システムの開発・保守に係る管理」については、外部のSaaSシステムやパッケージを利用することで一定程度負荷を減らすことができます。また、「内外からのアクセス管理などシステムの安全性の確保」は、情報漏洩などが起きると最悪の場合上場が延期になるケースもあるので重要なポイントです。

IT業務処理統制について

(西本氏)続いて、ITに係る業務処理統制についてです。特に1つ目、入力管理におけるダブルチェックやスプレッドシートの権限の制御は運用をしていく中で続けていく必要があります。また、データのin/Outによって発生しやすいエラーへの対応や、更新漏れを防ぐためのマスタ管理も重要です。業務処理統制においては、エラーが起きやすいポイントに対してチェックをする統制を設けておくことが一番大切です。

内部統制を行うためにSaaS企業が選ぶべきシステム

(西本氏)最後に、内部統制を行う上でシステムを選ぶポイントについてお話します。
まずはシステムで、SaaS特有の契約を表現できることです。弊社が提供する「Scalebase」では、BtoBならではの案件や、契約ごとに異なる料金体系、Excelや自社開発では表現が難しい従量制の表現、年一括請求やディスカウントといったカスタマイズ処理など、様々な料金モデルを表現することが可能です。


(西本氏)また、売上計上時の不要な手作業を減らすために連携性も重要です。これについても、「Scalebase」では、契約情報や販売する商品マスタ・提供先の顧客マスタ等の管理ができ、毎月必要な請求金額を自動で計算することができます。さらに、計算された請求データは「Scalebaseペイメント」という請求書発行のサービスに連携して請求業務を行えるほか、他の請求書発行SaaSへもデータの連携を行うことができます。

(西本氏)そのほかにも、SaaSビジネス特有の契約情報の変化を時系列で管理することができる機能や、正確な財務情報を出す上でのデータのアウトプット機能も備わっています。

(西本氏)実際に上場準備中のお客様の事例として、Excelを用いた契約や請求情報の管理に限界を迎えて導入を決定していただいたケースがあります。また、上場後のお客様でも、例えばNTT東日本様では、SaaSサービスを新規に扱う事業部で、既存の基幹システムと「Scalebase」と組み合わせて管理を行うことで工数を大幅に削減いただいています。(NTT東日本様の導入事例はこちら

上場に耐えうる組織をつくるために

(長谷氏)続いて、上場に耐えうる組織づくりについてお話します。IPO成功に向けた経理・バックオフィス部門への期待は大きく、新しく対応すべきことも山積しており、事業成長を阻害させられないプレッシャーがあります。

強いバックオフィスに求められている4要素

(長谷氏)上場準備企業に限らず、強いバックオフィスに求められている要素について弊社でまとめた内容をご紹介します。財務会計経理をソラアメカサ*の枠組みで捉え、業務を進めることを推奨しています。


*問題解決のフレームワークの一つ。事実の確認・解釈・判断を行う思考の枠組み。

(長谷氏)1番目の「財務会計経理のソラアメカサ」において、具体的にどのような対応が必要になるのか、まとめています。「事実の把握」が出発点ですが、体制の不安定さ・脆弱さ・担当者の多忙などの理由により、解釈や判断、実行フェーズまで進まないケースもよく見られます。

(長谷氏)上場準備企業となると、先に説明した1番目「財務会計経理のソラアメカサ」から4番目「レポーティング」までの要素をしっかりと行う体制構築が必要となり、難易度は急激に上がります。体制構築に耐えうるケイパビリティ・リソースが求められる一方、上場に向けた準備を短期間で行う必要があるため、苦境に立たされてしまう経理の方が多いです。
また、経理現場での人材不足、不安定な業務プロセスや社内オペレーションといった課題は常に付きまといます。経理の退職や離脱の理由は様々ありますが、人間関係の問題や担当者のスキルアップ・育休など、主体的にコントロールできない事象が多いのが特徴です。

上場準備を乗り越える思考様式と実践手法

(長谷氏)ここで、上場準備を乗り越える思考様式と実践手法について説明します。
下図をご覧ください。仕組みづくりと運用を回す業務を区分し、それぞれについて対処するメンバーを意識的にアサインすることが重要です。仕組みづくりと運用を回す業務をどちらも疎かにせず、業務を切り分けて考え実行していくことで上場に向けて安定した業務を行えるようになります。

(長谷氏)ここで、経理におけるコア業務とノンコア業務の切り分けについて説明します。
コア業務は自社ビジネスへの深い理解が必要な業務、ノンコア業務は必ずしもそれがなくても実行可能な業務と、切り分けて考えています。もちろん、ノンコア業務についても、経理知識や実践経験は必要です。

(長谷氏)フェーズ別のコア業務とノンコア業務について、下図にまとめました。フェーズごとにコア業務とノンコア業務が異なるので、上場後の将来を見据えた経理体制の構築が必要です。また、コア業務は社員が行うことを、ノンコア業務はアウトソーシングで補うことを推奨しています。

まとめ

上場に耐えうる内部統制や社内体制を構築していくためには、適切なサービス選びが1つのポイントとなります。最後に、本記事での紹介サービスをまとめました。本記事の内容を、IPOに向けた組織作りにお役立てください。
販売・請求管理システム「Scalebase」
オンライン経理アウトソーシングサービス「バーチャル経理アシスタント」
経理DXコンサルティングサービス「メリービズ経理DX」

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