国税庁OB・3社共催セミナー【第二部】インボイス・電帳法対応に合わせたDX推進の先進事例と抑えるべきポイントとは
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2023年1月25日、国税庁OBである袖山税理士をお迎えして、スーパーストリーム社、アール・アンド・エー・シー社、メリービズの3社で共催セミナーを開催しました。
「インボイス・電帳法対応に合わせたDX推進の先進事例と抑えるべきポイントとは〜国税庁OB税理士に直接質問〜 会計ERP・債権システム・経理DXコンサルティングのプロたちが徹底討論」と題して実施されたこちらのイベントでは、法改正とDX推進のポイントについて先進事例を交えて徹底討論。
本イベントレポートではその内容をまとめてご紹介します。制度対応や今後の経理のあり方について、国税庁、ベンダー、コンサルティング、あらゆる視点での最新情報をお読みいただけます。
※なお本イベントは二部構成となっており、第一部では袖山税理士の基調講演、第二部では登壇社4名によるパネルディスカッションをお送りしました。本記事では、【第二部】の内容をご覧いただけます。第一部の内容についてはこちらの記事をご参照ください。
登壇者紹介
SKJ総合税理士事務所 所長・税理士 SKJコンサルティング合同会社 業務執行社員 袖山 喜久造 氏 国税庁、東京国税局調査部において大規模法人の法人税等調査事務等に従事。同局調査部勤務時に電子帳簿保存法担当の情報技術専門官として調査支援、納税者指導等に携わる。 |
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株式会社アール・アンド・エー・シー パートナー推進部部長 ITコーディネータ(経済産業省推進資格) 鴨下 徹 氏 大手基幹業務パッケージメーカーに新卒入社。東京、東海地区、北陸地区に所在するパートナー企業の担当営業として従事した後、2020年にR&ACへジョイン。現在はパートナー推進グループのマネージャーとして、アライアンス提案、セミナー企画・講演、勉強会講師、商談支援などを精力的にこなす。 |
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スーパーストリーム株式会社 マーケティング部部長 山田 英樹 氏 1998年4月、旧エス・エス・ジェイ社(現スーパーストリーム社)入社。サポート業務、導入コンサルティング業務に携わる。コンサルティング業務では売上1兆円企業から10億円企業まで幅広い企業に導入経験あり。2022年7月からマーケティング業務に従事しマーケティング、商品企画業務を実施中。 |
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メリービズ株式会社 代表取締役 山室 佑太郎 東京理科大学専門職大学院在学中より、エムスリー株式会社にて製薬会社へのマーケティング支援に従事。その後、総合系コンサルティングファームを経て2015年にメリービズ株式会社へ参画。2016年10月に取締役に就任し、『バーチャル経理アシスタント』の事業立ち上げを陣頭指揮。東証プライム上場企業からベンチャー・スタートアップ企業まで、数十社以上のコンサルティングを行う。2022年2月から代表取締役に就任。 |
※以降、敬称略
パネルディスカッション
インボイス制度施行で変わる世界観。なぜ10月?国税庁のもくろみは?
株式会社アール・アンド・エー・シー(以下「R&AC」) 鴨下:まずはインボイス制度の施行について、国税庁OBの袖山税理士にお話を伺いたいと思います。
袖山:インボイス制度の意義をお話しするにあたって、まず消費税について簡単に説明します。税金には、直接税と間接税があります。直接税とは税金を負担する者が申告して直接納税する税金のことで、法人税などがこれに当たります。一方、間接税とは税の負担者と納税義務者が違う税金のことを指し、消費税はこちらに該当します。消費者が負担した税金を事業者が預かり、事業者が納税義務者となって国や地方に申告をして納税しますよね。
実は、国税庁には消費税を引き上げたい強い動機があります。
解説のため、消費税の歴史を振り返ってみましょう。平成元年4月に消費税法が施行され、ここで初めて日本に消費税が導入されました。当時の税率は3%。しかし、消費税法には「消費者が支払った税金を事業者が正しく納税できる仕組みになっていない」という欠陥がありました。例えば、免税事業者に支払った税金についても仕入税額控除できるという問題です。一方で、施行当時の税率は3%で財政の基盤と言えるほどの税収ではないので看過されてきたのです。
しかし現在、消費税は国の税収の30%を占めており、政権は税率の引き上げを検討しています。消費税引き上げの動機はなにか。それは、所得税や法人税を上げると、日本で商売する事業者・個人が海外に流出して世界的な競争力が下がってしまうからです。少子高齢化が進む中、社会保険料の一部を賄っている消費税による税収を増やすしかないというわけです。
国税庁には、「消費税を正しく徴収できる仕組みを作らないと日本の財政ひいては国の運営に影響する」という強い危機感があります。この背景から導入されたのがインボイス制度です。インボイス制度は、消費者が払った税金が間違いなく国に納税される仕組みと言えます。
制度施行に向けて、お客様のニーズやベンダー側の対応は?
R&AC 鴨下:インボイス制度開始に伴って事業者側は色々と対応を求められています。最低限、何から着手すべきなのでしょうか。
袖山:取引先が免税事業者なのか課税事業者なのかを区別して管理し、適切に会計処理する必要があります。インボイス制度では、登録番号が記載された適格請求書でなければ仕入税額控除が受けられなくなるからです。このあたりは法令順守の観点からきちんと整えておかないと、税務調査などで問題になる場合があります。
R&AC 鴨下:他方で、経理システムを開発するベンダーにはどのようなことが求められているのでしょうか。
袖山:インボイス制度の対応は本来、人がやることは少なくシステムだけで対応できることが多いです。そもそも、請求書の処理や発行は人が入力したり記帳したりするより、システムでやった方が正確で確実で効率的です。インボイス制度対応においても同じです。例えば免税事業者・登録事業者を区分して管理するためには、3つ必要なポイントがあります。
- 国税庁のデータベースにアクセスする
- 課税事業者の登録があるか確認する
- 仕入税額を計上する/しないを判断する
私はこの3点とも、全てシステムでできるようになるような状態を求めています。インボイス制度が開始される今、システムが活用されないと納税者や事業者の負担が増えてしまうので、ベンダーへの期待は非常に大きいです。
R&AC 鴨下:今度はベンダー側の皆さんに、お客様からのニーズや対応方針などをお伺いします。
スーパーストリーム株式会社(以下「SS」)山田:弊社では特に会計システムについて、インボイス制度対応のための機能をいち早くリリースしてきました。2022年6月にインボイス制度の対応機能の一次フェーズをリリースし、同年12月にも追加でリリース。さらに2023年6月に残りの機能をリリースする予定です。
SS 山田:なぜここまで早く着手したのか。背景には、弊社の製品は外部のシステムからデータ連携してお使いいただくケースが多いことがあります。「弊社の会計システムは早めにインボイス対応するので、その上でお使いの販売システムや購買システムを対応させてください」というメッセージも込めて、早い段階からリリースしていました。具体的な機能としてはご覧の通りです。
SS 山田:1次フェーズで入力系の機能、2次フェーズでは出力系の機能をメインでリリースしました。今年6月に予定している3次対応についても出力系の機能を中心としつつ、袖山税理士にご助言をいただいた「仕入先が適格請求書発行事業者なのかどうかをチェックする機能」をリリースします。国税庁データベースとAPI連携しているので安心して運用いただけます。もう一点、今回のシステム改修で特徴的なのは仕入税額控除の税率を経過措置に合わせてシステム側で一括管理できるようにした点です。一度設定していただければ、その後はお客様が数年ごとに変わる税率を気にする必要はなくなります。
R&AC 鴨下:スーパーストリームさんは状況に応じてスピーディーに対応されている印象です。
SS 山田:オープン環境で早い段階から会計システムを開発していたという社風もありますが、新しい技術や法改正については有識者の方々からご意見をいただいて、早めに市場に出すことを心がけています。
R&AC 鴨下:そのあたりの信頼性、安心感がポイントになってきますね。弊社の製品Victory-ONEシリーズは債権管理や入金消込に特化しているので、この辺りの業務改善の一貫としてインボイス制度に対応していくためのソリューションをご用意しています。
R&AC 鴨下:ここまでベンダーの取り組みをご紹介してきたので、次は業務フローをどのように対応させていくべきかについてメリービズさんよりお話しいただきます。お客様からはどのようなお悩みを伺うことが多いのですか。
メリービズ株式会社(以下「MB)山室:袖山税理士からシステム側への期待が大きいと言うお話がありましたが、実際システムを起点にした業務設計についてご相談をいただくことが多いです。インボイス制度や改正電子帳簿保存法(以下「電帳法」と表記)への対応をきっかけにシステム導入を検討される企業様が相次いでおり、「ワークフロー機能が自社にマッチするか」「どのようなスコープで経理DXに着手すべきか」などシステムの使い方に限らないご相談が目立ちます。法改正を単に大変なイベントと捉えるのか、あるいはいい機会と捉えて業務改善やDXに着手していくのか、対応が分かれてきている印象です。
制度対応のタイミングは業務改善のチャンス!?
R&AC 鴨下:各社様々なお客様をご支援されていますが、制度対応をきっかけに業務改善に成功された事例をご紹介いただけますか。
MB 山室:「経理DX」という少し広いテーマで業務改善を進めた事例をご紹介します。次のスライドをご覧ください。左側に当初の課題を記載していますが、どれも典型的なお悩みです。事業規模の拡大により生産性が低下していたり、業務フローの全体最適ができていなかったり、これらを改善したくともリソースやノウハウが不足していたり。こういった課題をお持ちのお客様に対してはまず、「現状の整理」と「あるべき姿の選定」のための伴走をします。
MB 山室:業務改善プロジェクトを進めている方は、現場で手を動かしていると言うより現場を俯瞰する立場の方が多く、オペレーションを深く理解しているとは限りません。ブラックボックス化が問題になっていることも少なくないので、現状のフローがどうなっているのか一緒に読み解きながら、改善策に優先順位をつけて「次の一手」を共に模索します。業務フローを見える化して、課題を特定して、取組施策を検討する。決して珍しいことではありませんが、我々のようなアウトソーサーと壁打ちしながら進めることで、現場担当者の世界観に閉じない観点が出てきます。
R&AC 鴨下:システムで対応すべき領域と人で対応するべき領域のバランスが重要ですね。袖山税理士の話やメリービズさんの事例を総括すると、ITツールを頼る部分は十二分に頼りつつ最終チェックや確認は人で対応する必要がある。しかしそのバランスを社内で決めていくのはリソースやノウハウの観点から難しい場合もあるので、客観的にアドバイスをもらう手段としてアウトソーシングを活用できるということですね。
MB 山室:ITツールを導入すれば100%業務改善されるわけではないですが、ツールによって解決できることはたくさんあります。私たちは、システムの導入やオペレーションへの組み込みに伴走します。
R&AC 鴨下:続けて弊社の事例もご紹介します。これまで大手企業様から中小中堅企業様まで幅広くご活用いただいており、累計1,000社に導入されております。債権の発生は業種業界問わず発生するので、様々な企業様に利用いただいています。
R&AC 鴨下:次のスライドをご覧ください。導入前の課題は2つで、いわゆる属人性とアナログ管理でした。具体的には、特定の担当者でないと業務が進まなくなっており、担当者が仮に変更になったとして、一定以上のパフォーマンスを発揮できないのではないかという懸念がありました。また、紙に印刷してそれをチェックするアナログな業務管理への課題感もありました。他にも、消費税積み上げによる誤差や分割入金など、日本の商慣習ならではの課題を人の経験則で解決しているケースも多く、よくご相談いただきます。
R&AC 鴨下:このようなケースに対しては、機械学習で課題を解消していきます。経験則、つまり担当者のスキルによって醸成されていたものを、システムの中に記録していくということです。これにより、担当者が変わっても引き継ぎしやすくなるほか、システムを使うほど精度やスピードが高まるメリットがあり、業務DXが進むことも期待できます。サイトにて他の事例もご紹介しているので、ぜひ合わせてご覧ください。
SS 山田:続けて弊社の事例もご紹介します。次のスライドをご覧ください。実際にシステム導入によりDXを推進した事例を機能と共にご紹介しています。
SS 山田:特に注目いただきたいのが、赤枠で囲った5番目と6番目の事例です。5番目は電帳法への対応として、証憑の電子データ保存・タイムスタンプの付与を実現した機能です。これまでは担当者が証憑を都度スキャンして仕訳データに紐付ける必要がありましたが、自動証憑添付機能により約60%の作業効率を実現できました。データと紙を一括で管理できるようになりましたし、タイムスタンプの付与も可能なので電子データ保存も実現。最近注目を集めている機能の一つです。
SS 山田:6番目は請求書の入力業務を画像解析AI・自動仕訳AIで自動化した事例で、これにより入力時間を約60%削減できました。実際「請求書の入力業務がすごく効率化できた」というお声もいただいています。袖山税理士の話にもありましたが、在宅勤務などにより、PDFの証憑をやり取りする際には基本的にメールに添付するかと思います。しかしAI-OCR機能を使えば、特定のフォルダに証憑を格納するだけで、自動で支払い伝票を起票できます画像解析と自動仕訳のAIが走ることで、自動的に支払い伝票を作成できるというわけです。支払い伝票を確認し、問題なければ本伝票としてシステムに保存されます。AIなので、使うほど学習が進みどんどん賢くなっていき、精度も上がります。入力業務効率化の一助になっていると考えています。
業務改善に向けたアドバイス「いつから、誰が、どこを、どうやって」
R&AC 鴨下:業務改善に向けて、皆さんの経験則を踏まえたアドバイスをいただきたいです。
MB 山室:当たり前ではありますが、システムを導入することがゴールにならないようにすることが大事です。そのために、まずは全貌を知ることから始めてください。ありのままを理解するため、分断化されている関係者へのヒアリングを惜しまず、全体を理解します。そのうえで、課題を検討しましょう。一つずつ分解して、非効率なところを見つける。課題は無限にあるので、課題一覧を作ることもおすすめです。一気に全部解消するのは難しいですが、この一覧は未来の資産になります。そして、課題に優先順位をつけて改善方法を検討します。ツールを導入する、手順を変える、業務をやるのをやめるなど解決の方法は様々です。当たり前のことではありますが、足元から一つずつやっていくことが何より重要ですし、私たちはそのサポートをさせていただきます。
SS 山田:弊社ではデジタルインボイスへの期待を高めています。これまでは業界全体のEDI(電子データ交換)の仕組み的に部分最適なシステムやツールが多かったですが、今後これが繋がってくると考えています。今まで分かれていたネットワークが一つにまとまっていく。企業間の商取引が繋がっていくことは、業務効率化において大きな意味を持ちます。その大きな流れに対して足を引っ張らないよう、請求データの発行から入金、それに対する請求番号の付与や債権の計上まで、システム全体の会計データを一元管理して多彩な会計ニーズに対応していきます。
R&AC 鴨下:日本の商慣習は独特ですから、デジタルインボイスの普及によって請求や消込、入金方法などの業務改善をどう進めていくべきか、弊社でも注視しています。
最後に
MB 山室:今の時代は悩むテーマが様々ありますが、それを一人で抱えるのではなく、色々な方に相談することが大事です。メリービズは、ノウハウやプロの手やスキルを提供します。経理DXという広いテーマから、専門性あるオペレーションをどう落とし込んでいくのかという日々の運用方法まで、なんでもご相談ください。インボイス制度の開始を「いい機会」だと思って改善を進めることが、推進者にとっては大事です。
SS 山田:最後にお伝えしたいことはスライドに記載した3点です。インボイス制度に限らず、適切なタイミングで適切な機能を提供していくことは弊社のモットーです。引き続き尽力してまいります。
袖山:システムベンダーさんの頑張りを感じました。制度対応においては、システム導入が必要な部分が必ず出てきます。山室さんのお話にもありましたが、システム導入するだけでは電子化は完成せず、運用ルールが必要です。中小企業は中小企業なりの、大企業は大企業なりのルールを作って対応することが、電子化において一番重要なのです。システムでやること、アウトソーシングすること、人の手でやること、それぞれの処理ごとに判別をして運用ルールを定める。電帳法改正・インボイス制度の開始によりデジタル化の機運が高まっていますから、これをきっかけに視聴者の皆さんも、ベンダーやアウトソーサーを頼りつつ電子化を進めていってください。
R&AC 鴨下:弊社の製品が得意とする入金消込は特に、法制度対応のずっと前から課題に感じている方も多い業務です。お困りの方はお気軽にご連絡ください。本日はありがとうございました。
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