BOXIL EXPO 第4回財務・経理展「経理業務のDX展望」

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人材不足、リモートワークの浸透、電子帳簿保存法改正などを背景に、経理DXの必要性が高まっています。経理のDX推進は業務効率化や経費削減の実現につながり、結果としてビジネスを大きく成長させるきっかけともなり得ます。ただし、ツールやサービスを導入しても運用できなければ、経理DXは絵に描いた餅で終わるでしょう。

そこでメリービズは、2022年7月20日〜21日にオンラインで開催された「BOXIL EXPO 第4回財務・経理展」において、「経理業務のDX展望」をテーマに、スマートニュース株式会社の経理シニアマネージャーである藤倉茂樹氏、株式会社ウチダレック専務取締役の内田光治氏とパネルディスカッションをおこないました。事業が急拡大するなかで直面した課題をSaaSの活用で解決した藤倉氏、DXにより週休3日制・営業利益2倍を実現した内田氏から、現場のリアルな悩みやDX推進の経緯、そこから見えた経理DXの展望を伺いました。

登壇者紹介

スマートニュース株式会社 経理シニアマネージャー
藤倉 茂樹 氏
株式会社西友入社後、主に経営企画、経理等のCorporate系業務を担当しWal-Mart買収後はUSGAAP Reporting等を担当。 株式会社ファーストリテイリングにてグローバル統一会計システムの導入、海外拠点の経理立ち上げ等を担当した後、株式会社DeNAでは会社が急成長した後の経理オペレーションの改革、グローバル対応会計システム導入を推進。 2018年 スマートニュース株式会社に入社。会社成長に伴う経理オペレーション再構築、IFRS導入、グローバルERP導入などを推進。
株式会社ウチダレック 専務取締役
株式会社ワークデザイン 代表取締役
内田 光治 氏
株式会社ワークデザイン代表取締役 兼 株式会社ウチダレック専務取締役。慶應義塾大学経済学部を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。楽天、ネットプロテクションズを経て、ウチダレックに入社。繁忙期の深夜残業、業務の属人化を目の当たりにし、地方の人口減少下においても働きやすい企業を目指し業務改革を実行。不動産業界初の週休3日を導入、同時に営業利益2.5倍を達成。
メリービズ株式会社 代表取締役
山室 佑太郎
東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科在学中より、エムスリー株式会社にて製薬会社へのマーケティング支援に従事。その後、総合系コンサルティングファームを経て、2015年メリービズ株式会社へ参画。 経理/会計業務のオンラインアウトソーシングサービス『バーチャル経理アシスタント』の立ち上げを担当。 2016年10月より同取締役に就任。COOとして、事業戦略の立案推進などに従事。2022年2月より代表取締役に就任。

グローバル展開を加速させ、事業拡大を進めるスマートニュース社、不動産業界のDXを強力に推進するウチダレック社


出典:「BOXIL EXPO 第4回財務・経理展」当日の配信映像より抜粋

山室:メリービズは経理のアウトソーシングサービス『バーチャル経理アシスタント』を提供していますが、2022年からは新たに業務効率化や経理DXを支援するコンサルティングサービスの提供も開始しました。本日は、実際に現場で経理DXを進めてこられたお二人から、解像度の高いお話を伺いたいと思っています。まずは簡単に自己紹介をお願いします。

藤倉:スマートニュース株式会社の藤倉です。新卒で入社した西友*1で経営企画や経理などのコーポレート系の業務を担当し、ファーストリテイリング*1に転職後は海外拠点の立ち上げや会計システムの導入などをおこないました。その後DeNA*1を経て、2018年10月にスマートニュースに入社しました。経理シニアマネージャーとして、経理オペレーションの改善を進めています。
また弊社は組織とビジネスのグローバル展開を進めており、オフィスは日本、中国、アメリカの3カ国6オフィス、従業員の出身地は18の国と地域に及びます。私はそれに伴う経理業務のグローバル化対応も担っています。

内田:株式会社ウチダレック専務取締役、株式会社ワークデザイン代表取締役の内田です。ウチダレックは鳥取県米子市にある不動産会社で、今年で創業53年目となりました。
私は7年前に入社したのですが、それまで楽天
*2やネットプロテクションズ*2といったIT企業で働いていました。その経験から、入社後はITに関するノウハウを経営に活かすことを積極的に考えてDXを進め、結果として週休3日を実現しました。これは不動産業界ではかなり珍しいことだと思います。一方で営業利益は2倍に拡大させることができ、離職率も3%まで低下しました。

山室:不動産会社で週休3日は聞いたことがありませんね。今では不動産事業のみならず、DXツールの開発・販売もされていると伺っています。

内田:はい。DXにより業務効率化を実現したノウハウを全国の不動産会社にも活用してもらおうと考え、2019年にワークデザイン社を立ち上げて、『カクシンクラウド』というDXツールの提供を始めました。不動産会社では、同じ会社でも各部署の部屋が分かれていることが多く、部署間でのやり取りが少ない、という課題があります。『カクシンクラウド』は、それぞれの部署が抱える業務や保有データの一元管理、仕事の見える化とデータ共有を実現し、業務効率の向上、部署間でのスムーズな連携を目指しています。

事業の急成長・社員の急増で経理業務も激増。業務効率化を目指して進めた二つの改革

山室:このセッションでは、スマートニュース社とウチダレック社の経理DXについて、「過去・現在・未来」の3つの観点からお話を伺いたいと思っています。まず「過去」の部分について、スマートニュース社ではどういった課題を抱えていたのか教えてください。

藤倉:私が入社した2018年はちょうど会社が急成長しているタイミングで、毎月10名以上が入社するような状況のなか、経理部の仕事量が増え続けていたことが一番の課題でした。そこで経理部の人員を増やさず、ツールやアウトソーシングを活用したり、オペレーションを改善したりすることで、なんとか業務効率化を進めたいと考えていました。

山室:従業員の増加により経理の負担が増すというのは、成長企業が直面しやすい課題ですね。ツールの活用はどのように進めたのですか?

藤倉:私の前任者がSaaSの導入を進めてくれていたおかげで、私の入社時にはすでにツール自体は存在していました。ところが導入していただけで、使いこなせてはいなかったのです。そこでSaaSに合わせたオペレーションの再構築から始めました。

山室:ツールを入れただけで活用していなければ、宝の持ち腐れになってしまいますね。

藤倉:加えて、業務が属人化していたことも課題でした。当時5人いた経理部のメンバーは全員他社で経理をしていた経験があり、それぞれの担当領域についてはきっちり業務を遂行できていたのですが、隣のメンバーが何をしているのかお互いに把握していませんでした。そのため、隣のメンバーが困っていても上手くサポートできない状態でした。
誰がどんな業務をしているのかを明らかにしなければ、システムやツールを使っても業務効率は上がらないと考えました。

山室:まさに属人化の弊害ですね。これらの課題に対して、どのように解決を図ったのですか?

藤倉:取り組んだことは、大きく分けて二つあります。一つ目はメンバーの役割を変えたことです。役割が変われば、当然業務の引き継ぎが必要になります。それをきっかけに、それぞれが抱え込んでいた業務をドキュメント化することができました。二つ目は、メリービズの活用です。段階的に仕事をお任せしていくなかで、業務が見える化していきました。
私もこれまで経理には携わってきましたが、比較的規模の大きな会社で働いてきたこともあり、経理業務を1から10までわかっているとは言えませんでした。しかし、業務の見える化や再構築を進めるなかではさまざまな質問が出てきます。そこで「自分で一度、全部理解しよう」と思い、現場の業務をくまなく見ていきました。現場レベルで把握するため、実際に自分で手を動かしながら、業務理解に努めました。

長年経理担当者が変わらず、業務が属人化。アウトソーシングをきっかけに仕事の見える化を実現

山室:今度はウチダレック社の「過去」について聞かせてください。御社では以前、どのような課題を抱えていたのでしょうか?

内田:弊社は創業53年の老舗企業ということもあり、業務がともかく属人化していました。経理担当者は長年変わっておらず、業務フローすら存在していませんでした。しかも私は経理未経験。藤倉さんのように経理業務を理解しようと思っても、なかなか簡単にはいきませんでした。

山室:歴史ある企業では、業務が属人化しがちですね。それにどのように対応されたのですか?

内田:弊社の場合は、まずメリービズさんに協力していただき、コンサルタントのサポートのもと、業務をすべて洗い出して一つ一つ仕組み化していきました。コンサルタントは経験が豊富で経理DX成功のノウハウをよくご存じだったので、弊社の状況に合わせたご提案をいただくこともできて助かりました。

山室:ただ、歴史ある企業の場合、課題が組織と密接に絡み合っていて、簡単には解決できない印象もあります。

内田:そうですね、最初は経理担当者との連携に苦労したりもしましたが、アウトソーシングをするなかで自然と見える化が進んでいきました。それまでは、経理担当者がどういったスケジュールで仕事を進めていて、どの時期にどの程度忙しいのか理解できていませんでした。しかしアウトソーシングを進める過程で年間スケジュールや繁忙期がクリアになり、業務が見える化されていきました。その結果、改善すべき点が明確になり、それまで8,000ほどあった仕訳数を3,000ほどに減らすなど、効率化に成功しました。
また会計ソフトをオンプレミスからクラウドに変えたことで、経営陣がリアルタイムで会社の状況を把握できるようになった点も、大きなメリットですね。

経理DXにより週休3日を実現、コロナ禍のリモートワークにもスムーズに対応

山室:ここまで過去についてお伺いしました。次は、お取り組みを経てどのような効果を生むことができたのか、今度は内田さんから「現在」の状況を教えてください。

内田:一番大きく変わった部分は、やはり週休3日を達成できたことですね。メリービズさんにアウトソーシングをお願いし始めてから、業務量の変動の波が小さくなり、非常に忙しい時期がなくなって休みが取りやすくなりました。
また、地方では東京などの都市部と比べてなかなかリモートワークが浸透しないのですが、弊社ではリモートワークを基本の働き方とすることができています。この点については、特に子育て中の女性従業員からすごく喜ばれていますね。

山室:スマートニュース社ではいかがですか?

藤倉:大きな効果を感じたのはコロナ禍のタイミングでした。先ほどお話したような改善策を進めていったときに、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めました。全社的に原則として在宅勤務が指示されたのですが、正直なところ「出社しないで月次決算や四半期決算ができるのか」「上司の承認が必要なケースはどうしたらいいのか」と不安でした。ですがやってみると、案外何とかなったのです。「フルリモート・出社ゼロ」とはいきませんでしたが、月5日ぐらい出社すれば仕事が停滞することもありませんでした。
それができた理由を考えてみたところ、導入したSaaSを使いこなせるようになっていたこと、関連するワークフローを紙からオンライン文書に切り替えていたことの2点がプラスに働いたのだとわかりました。結果論ですが、これらがタイミングよく重なったのだと思います。

山室:藤倉さんが入社直後から進めていた改革が、コロナ禍で活きたのですね。

藤倉:そうですね。私も以前は日々の業務に追われ、仕事を回すことに精一杯でした。ですがメリービズさんの力をお借りしたり、社内の業務効率化を進めたりしていたことで、よりクリエイティブな業務や先を見据えた対応に時間を使えるようになりました。

会社の状況に合わせてツールやサービスを活用できるよう、組織変革を進めていくことが大事

山室:今後アップデートしていきたいことはありますか?

藤倉:グローバル展開がますます進んでいくなか、拠点や国境を超えて連携できる体制づくりやシステムの更新が必要となっています。多通貨で支払いをおこなう機会も増えているので、それらの対応も考えていきたいと思っています。

山室:では最後に、DXを軸としたこれからの展望をお聞かせください。

藤倉:あまり目新しいことではありませんが、現在進めているペーパーレスを加速させ、完全なペーパーレスを実現したいと思っています。オペレーションの見直し、電子帳簿保存法の改正やインボイス制度への対応も進めていきたいですね。

内田:私たちは、もっとアウトソーシングを活用していきたいと思っています。業務の見える化・仕組み化をどんどん進めることで、今よりもっとコア業務に集中できるようになりますし、従業員の潜在能力をより引き出せる環境づくりができると考えています。

山室:藤倉さんと内田さんのお話を伺って、一口に「経理DX」といっても、会社ごと・現場ごとに全く異なるストーリーがあると感じました。一方で、自社の課題や状況に合った方法で進めていくこと、システムやDX関連サービスの活用と併せ、組織変革や業務の見える化をおこなっていくことが欠かせない点は共通していましたね。経理DXを進めていきたいと考えている方にとって、参考になる点が多かったのではないでしょうか。本日は誠にありがとうございました。

まとめ

経理DXの必要性が高まるなか、自社に合わせた経理体制を構築された両者の取り組みは、現場ならではの試行錯誤が詰まった内容でした。

スマートニュース社によるSaaSの習熟度向上とアウトソーシングによる負担軽減の施策は、結果として属人化から脱却し、コロナ禍でのリモートワーク実現、クリエイティブな業務への集中に成功しました。今後はペーパーレス化の加速や法改正等への対応、グローバル展開に耐えうる体制構築を推し進められます。

一方ウチダレック社は旧来からの属人化した業務に対し、アウトソーシングとクラウド会計システムの導入により業務の見える化を推進。大幅な効率化に成功し、不動産業界では異例の週休3日制の実現、子育て世代が働きやすい環境づくりを実現しました。今後も従業員の潜在能力を引き出すことを目的に、仕組み化、効率改善に取り組みます。

両者ともバックグラウンドは異なりますが、自社に最適な形での経理DXを加速されていきました。皆様もぜひ、ご参考になさってみてはいかがでしょうか。

『バーチャル経理アシスタント』を導入して経理業務の課題を解決した両社のお取り組みについては、個別の記事でもお読みいただけます。導入当初のお悩みについて、現場目線でより詳しくご紹介しておりますのでぜひ併せてご覧ください。

▼導入事例 スマートニュース株式会社
3000メディアから提供される1000ジャンル以上のニュースを配信するニュースアプリ「SmartNews」を展開。速報ニュースから趣味まで、世界中から集めた幅広い情報を日々利用者に届けている。コンビニなどで使えるクーポン配信サービスも好評で、すべての機能や情報が無料。創業は2012年。
業務量が増えても、メンバーは増やさない──スマートニュースが目指す、バックオフィスの理想形とは

▼導入事例 株式会社ウチダレック
鳥取県米子市の不動産会社。創業は1969年。DXを進めたことで週休3日を達成し、テレビや新聞に何度も取り上げられるなど注目を集めている。関連会社を通じて、業務改革の知見を生かした不動産業専門のクラウド型賃貸管理CRM『カクシンクラウド』の開発・販売も行っている。
その仕事は本当に「自社でやるべき仕事」か──週休3日制を実現したウチダレックの経理組織改革

*1 パネルディスカッション当日の表現に合わせ、略称での表記としています(それぞれ、株式会社西友、株式会社ファーストリテイリング、株式会社DeNA)。
*2 *1と同様に表記しています(それぞれ、楽天株式会社、株式会社ネットプロテクションズ)。

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